コラム

写真印刷の妙技!? 〜東京印書館PD高柳氏と

2020/03/04

新刊準備中

 女、美しく……わが旅の途上で 長倉 洋海

プリンティング・ディレクター高柳昇氏のことは業界の方はよくご存知かと思う。今回は著者長倉洋海氏の指名で高柳氏(東京印書館)にお願いした。写真印刷の達人である。入稿会議に始まり校正のたびにモニター画面で色をつきつめていく作業を重ね、いよいよ印刷工場へ。実際にはどう刷り上がるか、念には念を入れる。デジタルカメラのRGBとポジフィルムから、CMYKへ変換する際も綿密だったが、ここでもまたインクの乗り具合を見ながら調整、いっきに刷らない。インクの量を予想しコントロールする(マシンがありましたね、興味津々)。そして刷ったものを比べる。どの時点でGOと決めるか、経験を積んだ目がなければ容易に妥協してしまいそうだが、熟練二人の目は即決はしなかった。長倉氏の細かいリクエストに高柳氏がすばやく応じながら二度、三度と試し刷りをした。

どう?と言われて、見比べると確かに確かに……微妙な調整が仕上がりを左右するのが素人の眼にもわかる。微かな色、光の具合を見ていく。自然を写しとり、さらに紙に刷って写すという行為にはデジタルやメカニックの進化だけでなく、人の眼つまり感性が最後に物を言う。

そして表現に対する執着も才能の一つであるといまさらながらに思った。二人とも超がつく仕事熱心さ、周囲はそれをよく知っていて、誰も止めなかった。おつかれさまです……

満足の笑み! いい作品に仕上がりそうです、終盤とちゅうですが一安心……

高柳さん、長倉先生ありがとうございました。(左:高柳氏  右:長倉氏)

追記:これまで弊社の書籍印刷は数社に依頼してきたが、この度は写真集なので(株)東京印書館さんにお願いした。他社でももちろん可能だがプリンティングディレクター高柳氏の仕事が随一であることと、そして著者からの第一の条件であったこと(デザイナー中島浩氏も同意見であった)からだ。加えて私の都合でいえば制作過程がオープンであることだ。編集者は通常は校正紙でプロセスを確認していくので入稿してから製版までを実地で見ることはない。校正紙で修正、変更を指示していく。活字のみならそれで可能だが、色校正の修正は微妙なので一度や二度では済まない。そして校正を重ねれば印刷費用も増え、また技術者の負担もあるのはわかっているのでたいていのところで妥協してしまいがちだ。いったりきたりの繰り返しと三つ巴(著者、版元、印刷)のせめぎ合いを、営業担当者が引き受けてくれるので私は申し訳なくて弱気になったりもして、それで落とし所をとることにもなる。それが指示通りドンピシャで校正が戻った時などは歓喜する(滅多にないが)、それほど難しい行程である。今回はすべてを立ち会うことで効率良く進められ、今後の仕事に役立つものを多く学べたことが成果であった。

 

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