安齋 玖仁著
2019年03月09日発売定価1800円+税
聖徳太子が著した「神教経」は推古天皇の神道とは何かというご下問に応じて書かれた神道の教義書二冊のうち最初の一冊。神道三部と、天皇とは如何なる立場で何をなすべきかをつまびらかにした。同時に天皇及び朝廷に仕える官の道、今でいえば官僚と政府はどうあるべきなのかも書かれている。民への教えは次に書かれた宗徳経に詳しい。神教経は、今日まで皇室に伝わる三種の神器の意味とその裏付けとなる神学理論である宗源、齊元、霊宗(神道三部)が説かれ、国家の理念が明確に説かれている。ここに表された神道神学は、法哲学の「自然法」と重ねると理解しやすく、人類の普遍的な哲学にかぎりなく近いものということができる。
長いあいだ教義がないとして南北朝時代の「神皇正統記」(北畠親房)や復古神道(平田篤胤)を基に作られた明治政府の国家神道によって歪められてきた神道だが、古代の神道は世の中で知られている以上に清く、おおらかな道であったことがうかがえる。なによりも「天皇の悲しみ」についての記述は他本にはない。戦後の天皇についての責任論には無い視点であるだろう。先代旧事本紀大成経という古伝の中から、単純な天皇崇拝のための著作とは一線を画した天皇の姿が浮かび上がってくるのは新鮮である。